水戸簡易裁判所 昭和44年(ろ)22号 判決 1969年4月07日
主文
被告人両名は無罪。
事実
本件公訴事実によれば、被告人川上清、同五来栄市は共謀のうえ、昭和四三年一〇月一八日午前五時一五分ごろ、那珂郡東海村久慈大橋下流の久慈川において、川舟からかさねさし網を河中に流し、もつて、内水面において、禁止された漁具であるかさねさし網を使用して、さく河魚類であるさけの採捕行為を行なつたものである、と謂うにあり、検察官は右に謂う採捕行為とは、採捕はしなくとも採捕すべく、採捕行為に及べば本法に謂う採捕に該る、と釈明した。然しながら採捕の意義につき私はそのようには解さない。私は本法に謂う採捕とは、文字とおり、とらえる事、掴える事、少くとも容易にとらえ得る状態になつた事を謂うものと解する。採捕すべく採捕行為に及んでも、とらえなければ、掴えなければ、容易にとらえ得る状態にならなければ、それは採捕の未遂である。本件について是を観るに、被告人等の当法廷における各供述によれば、被告人等はさけはとらなかつたものである。又被告人等の検察事務官に対する各供述調書によると夫々「久慈川でさけを取ろうとした時海上保安部の係官にみつかつた」と謂うのであつて、とらえた事は勿論、容易にとられ得る状態になつたとも認められない。他にこれを認める証拠もない。そうすれば未遂は罰せずである。未遂を罰する場合は各本条において之を定めるのである。水産資源保護法第二五条には、さけを採捕してはならいと規定し、採捕行為をしてはならないとは規定していない。即ち未遂を罰する定めではない。茨城県内水面漁業調整規則も亦水産動植物を採捕してはならないと規定し、採捕行為をしてはならないとは規定していない。即ち未遂を罰する定めではない。若し、採捕行為、採捕しようとする行為までも罰しようとするならば、同規則第六条のように、水産動植物を採捕しようとする者は云々知事の許可を受けなければならない、とこのように規定される可きである。同一規則でこのように用語を使い分けしているところに着目するならば、検察官が謂う如く採捕と採捕行為とは同意義とは解されないから刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をするものである。